大相撲の元関脇
◆素直にこつこつ当たり続けて
「当たって、押すだけ」。師匠の春日野親方(元関脇栃乃和歌)は指導していた。当たって、押すだけ。「器用な相撲は取れなかった」と振り返る栃煌山は、それだけを素直に磨いてきた。春日野親方は「こつこつ積み重ねてきたものを出すタイプ。体と気持ちが一致した時に(いい相撲が)うまく出るけど、だらしない相撲になる可能性もあった」。うまくはまれば、立ち合いから一瞬で相手を土俵の外に運べる。気持ちのいい相撲っぷりだった。
格闘技を職業とするのにふさわしいかどうかはともかく、優しくて穏やかな性格だ。
◆「明日も来てください」笑顔に救われた
ある時期、私が本場所中に朝稽古を取材するとその日の相撲で負けるということが、5回ほど続いた。験を担ぐことが多い世界。いい流れではないと感じていたころ、取材した日に不戦勝で白星がつき、その流れは止まった。
関取自身に恐る恐る打ち明けた。「最近、僕が朝稽古に行くと負けるのが続いてたんですよね」。「知ってました。今日も、来てるよーって思ってました」。余計な気を使わせて申し訳ないと平謝り。するとにっこり笑って「いや、でも今日勝ったんで。明日も来てください。そうすれば、明日も不戦勝」。その冗談に救われた。
◆土俵では「平常心」ぶれずに貫く
もう一つの思い出。5年前の九州場所前、朝稽古後に、同じ部屋の碧山が私に「そのカメラ、いいですね」と話し掛けてきた。どうぞと手渡すと、おもむろに近くにいた栃煌山をパシャリ。仲間が構えるカメラに向けた安心しきった穏やかな表情に、この人の人柄が表れていた。
三役に定着していた2013年初場所前。新年の意気込みを色紙にしたためてもらった。「平常心」。優勝争いにからんでも、大関昇進に近づいても、土俵ではいつも通り、ぶれない心を貫く。栃煌山らしい言葉。これからは
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<取材ノート>逃げずにまっすぐ 栃煌山の不器用さに魅了されて - 東京新聞
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